MDPI

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MDPI AG
企業形態 アクツィエンゲゼルシャフト(公開会社)
業種 オープンアクセスジャーナル化合物ライブラリ
設立 2008
本社 スイスバーゼル
主要人物 林樹坤
ウェブサイト www.mdpi.com
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MDPIは、バーゼルスイス)に本部を置き、北京武漢(中国)、バルセロナ(スペイン)に大きなオフィスを構える2つの関連する組織 Molecular Diversity Preservation InternationalMDPI AG (Multidisciplinary Digital Publishing Institute) によって共有される頭字語である。前者は「研究のための化学的試料の保存」を目的とした組織であり、後者は査読付きオープンアクセスジャーナルの出版社である[1][2]

Molecular Diversity Preservation International[編集]

化学的試料[編集]

Molecular Diversity Preservation Internationalは、稀少な分子および生体分子研究試料の保管と交換を可能にするため1996年にバーゼルにおいてShu-Kun LinとBenoit R. Turinによって非営利団体フェアアイン)として設立・登録された[3]。目標は研究目的のために科学コミュニティーが利用可能な試料の収集と貯蔵を通じて化合物の多様性を保存することであった[4]。この試料の収集物は2013年にMDPI Sustainability Foundationへ永続的に移管され、Molecular Diversity Preservation Internationalは解散した。化学的試料の収集物は現在 MDPI Sustainability Foundationを代表してMolmall Sarlによって運営されている[5]

雑誌[編集]

MDPI収集物の化学的試料を記述するために、学術雑誌MoleculesがSpringer-Verlag(現シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア)と共同で1996年に創刊された。その他複数の雑誌がMDPI Vereinによって創刊された: Entropy(1999年)、International Journal of Molecular Sciences(2000年)、Sensors(2001年)、Marine Drugs(2003年)、International Journal of Environmental Research and Public Health(2004年)。出版社MDPI AGは2010年にMDPI Vereinから分社化された。

会議[編集]

MDPI VereinはInternational Symposium on Frontiers in Molecular Scienceを含む複数の学会を共催している。また、1997年に開始したElectronic Conference on Synthetic Organic Chemistryといったバーチャル学会も開催している。

MDPI AG (Multidisciplinary Digital Publishing Institute)[編集]

設立[編集]

オープンアクセス学術雑誌の出版社であるMDPI AGはMolecular Diversity Preservation International から分社化された。2010年5月にスイス・バーゼルでShu-Kun LinとDietrich Rordorfによって正式に登録され、中国にある3つの海外編集部で維持されている[3]。MDPIは編集に関する品質管理と論文の製作の費用を賄うために主に論文掲載料に頼っている[6]。70を超える大学と研究機関がMDPI Institutional Membership Programに加入している。 このプログラムは2013年の第4四半期に作られ、これらの組織からの著者は論文掲載料が減額される[7]。MDPIは出版規範委員会(COPE)、国際科学技術医学出版社協会英語版(STM)、オープンアクセス学術出版社協会(OASPA)の会員である[8][9][10]

雑誌[編集]

MDPIは現在、150を超える査読付き科学雑誌を出版している。2016年6月の時点で、28の雑誌がWeb of ScienceのScience Citation Index Expanded (SCI-E) の対象として選ばれており[11]、60以上の雑誌がEmerging Sources Citation Index (ESCI)[12]、BIOSIS previews、Zoological Recordといったトムソン・ロイターのその他の製品に収録されている。

生物医学、生命科学、および関連分野の32のMDPIの雑誌が、生物医学研究で最も包括的なフリーの全文アーカイブであるPubMed Central[13]に所蔵されている。MDPIの雑誌は、Scopusエルゼビア社、50を超えるMDPIの雑誌を含む)、Ei Compendex(13のMDPIの雑誌を含む)といったその他の関連インデックスサービスにも含まれている[14][15]

OASPAの勧告に沿って、2008年以降MDPIによって出版される全ての論文は、CC-BYクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で公開され[16]スイス国立図書館英語版およびCLOCKSS英語版に保存されている[17][18]

論争[編集]

物議を醸した論文[編集]

2011年12月、MDPIの雑誌Life英語版は、Erik D. Andrulisの理論上の論文『Theory of the Origin, Evolution, and Nature of Life』(生命の起源、進化、および性質の理論)を発表した[19]。この論文は生命を説明する枠組みを提示することを目指している。この論文は一般向けの科学技術雑誌アーズ・テクニカポピュラーサイエンスに注目され、「まともじゃない」[20]「笑える」[21]論文として報道された。Life誌の編集委員会英語版の委員1名はそれに応じて辞任した[21][22]。発行者のLinはLife誌の編集過程を擁護し、著者とは異なる研究機関の2名の教職員によって非常に長い査読を受け論文は修正されている、と述べた[23]

2013年、別のMDPIの雑誌Entropy英語版は、グリホサート肥満抑うつ注意欠陥・多動性障害自閉症アルツハイマー病パーキンソン病多発性硬化症がん不妊の最も重要な要因かもしれないと主張する総説を発表した[24]。この論文それ自体はいかなる一次研究結果も含んでいない[24]。この論文は一般向け科学雑誌ディスカバー英語版によって疑似科学として批判された[25]。同じ物議を醸した研究に関して、ジェフリー・ビールは「MDPIは金のためなら何でも出版するのか?」と大げさに尋ねている[26]

MDPIのような出版社がステファニー・セネフ英語版や彼女の共著者らのような科学活動家による研究をばらまく時、MDPIが出版した全ての研究の信憑性について疑問を持つのは正しいことだと私は思う。MDPIは金のためなら何でも出版するのか?

物議を醸した論文の3つ目の事例については「オーストラリアン・パラドックス英語版」を参照されたい。

MDPIは物議を醸した論文の出版に関する反応と擁護として2013年12月に声明を公開している[27]

ビールのリストへの収載[編集]

MDPIは2014年2月の時点でジェフリー・ビールの捕食出版のリスト(ビールのリスト)に含まれていたが、訴えが成功し2015年10月に除去された[28]。ベルによるMDPI批判を受けて、オープンアクセス学術出版社協会(OASPA)は2014年4月に調査を行い、MDPIがOASPA加盟基準を満たしていると結論付け、「我々の調査結果に基づき、MDPIがOASPA加盟基準を満たし続けていることに満足している」と述べた[29]

ジェフリー・ビールの懸念は、「MDPIの大問屋雑誌は何百もの安易に査読された、科学を伝えることよりむしろ昇進や終身雇用(テニュア)を獲得する目的のために主に書かれ、出版されている論文を含んでいる」ことであった[30]。ビールは、MDPIが原稿を募るために電子メールスパムを使用したとも主張した[31]

MDPIはビールのコメントについて「役に立たない一般的な批判」と見なし、MDPIがビールのリストに収載されたのは、「オープンアクセス出版一般に向けられた敵意」によって動機付けられていたと主張した[32][33]ケンブリッジ大学の化学者でMDPIの雑誌Dataの編集委員[34]であるピーター・マレー=ラスト英語版は、ベルによるMDPI批判は「無責任」で証拠を欠いていると批判した[35]

MDPIの雑誌の一つは「査読なんてこわくない英語版おとり捜査において標的とされたが、偽論文を却下した[36]。2014年、MDPIのLife誌は公開査読英語版を採用し始めた[37](任意、著者の判断で)[38]。これは、捕食雑誌と闘うための透明性の指標であると謳われている[39]

さらなる批判がマルティン・ハスペルマト英語版によって挙げられている。ハスペルマトはMDPIによって採られている出版モデルが

虚栄出版社英語版」(自費出版専門の出版社)のような機能を果たす雑誌や本を作る強い動因を作っており、これによって著者は高い掲載却下のリスクを負うことなく彼らの質の低い研究を出版することができる。[...] 例えば、私は最近、大量のオープンアクセスジャーアンルを出版している2つの中国企業のことを耳にしたが、それらの雑誌のいくつかは私の専門である言語学分野のものだ: ([...] 250を超える雑誌を出版している)武漢が拠点のSCIRP英語版と([...] 120を超える雑誌を出版している)北京が拠点のMDPI。ここでのビジネスモデルは大量の新雑誌を創刊し、それらのいくつかが成功し利益をもたらすを祈念するというものだ。例えば、MDPIの雑誌'Languagesはまだ編集者すらいない。これはもちろんスパム電子メールのビジネスモデルを彷彿とさせ、実のところ、一部の評者は「捕食雑誌」の危険性を警告している。

と主張した[40]

ハスペルマトに応えて、MDPIは同じ雑誌上で数多くの点について異議を唱えた論評を公開した[41]

ノーベル賞受賞者[編集]

ビールが彼のいかがわしい出版社のビールのリストにMDPIを追加した理由として、MDPI社は「...複数のノーベル賞受賞者が編集委員会の委員を務めていると主張するが、ある調査では彼らは自身が委員を務めていると認識していないことが明らかとなった」ことが挙げられていた[42]

この具体的な告発の証拠として、ビールはeCampus Newsによって運営されるニュース記事を提示した[43][44]。記者は後に記事を訂正し[45]、以下の注意書きを添えた[46]

本記事の旧版は、ノーベル賞受賞者の遺伝学者マリオ・カペッキが、自身がMDPIの雑誌Biomoleculesの編集委員会の委員として記載されていることを知らなかったと述べていました。当時、カペッキの助手、Lorene StitzerはeCampus Newsの取材に対して、「彼は自分が委員会に含まれていること知らなかった」と答えました。MDPIによる問い合わせの後、Stitzerは、カペッキは実際は自分が名誉編集委員であること知っている、と現在は述べています。eCampus Newsは誤りに関しまして遺憾に思います。

ノーベル賞受賞者マリオ・カペッキがBiomolecules誌の編集委員であることを知らなかったことに関するビールの告発に関して、MDPIは「Biomolecules誌の編集長はカペッキ教授から彼が委員会の一員であること実際知っていたという確認書を得た」という回答を掲載し、こういった文書の写しも同様に掲載された[47]。MDPIはノーベル賞受賞者のロバート・カールリヒャルト・R・エルンストジェローム・カールハロルド・クロトー李遠哲ルドルフ・マーカスエリック・マスキンスティーヴン・ワインバーグクルト・ヴュートリッヒジョージ・スムート[48]がMDPIの雑誌の編集委員就任を受諾したことを記録したと主張する電子メールを編纂して掲載した[47]

その他の論争[編集]

2018年8 月、Nutrients英語版誌の(編集長を含む)10名の編集主任が、MDPIが高い編集基準を理由として編集長の交替を強制し、「二流の質と重要性を持つ論文を受理」するよう強いた、と主張して辞任した[49]

脚注[編集]

  1. ^ "What is MDPI.com?". Retrieved 2014-03-17.
  2. ^ "Molecular Diversity Preservation International". Retrieved 2014-03-17. Home page
  3. ^ a b "History of MDPI". Retrieved 2014-03-17.
  4. ^ "Chemical Museum and Samples Exchange". Retrieved 2011-07-24.
  5. ^ "MolMall About us". MolMall. 2013. Retrieved 9 February 2014.
  6. ^ "Does MDPI Offer Any Discounts or Waivers of the Article Processing Charges (APCs)?". MDPI. Retrieved 18 March 2014.
  7. ^ "Membership Institutes". MDPI. Retrieved 18 March 2014.
  8. ^ "COPE Members". Retrieved 2015-08-20.
  9. ^ "STM Members". Retrieved 2015-08-20.
  10. ^ "OASPA Members". Retrieved 2015-08-20.
  11. ^ "Journals indexed in SCI-E (Web of Science)". MDPI. Retrieved 2016-06-20.
  12. ^ "Journals indexed in ESCI (Web of Science)". MDPI. Retrieved 2016-06-20.
  13. ^ "Journals indexed in PubMed". MDPI. Retrieved 2016-06-20.
  14. ^ "Journals indexed in Scopus". Retrieved 2016-06-20.
  15. ^ "Journals indexed in Ei Compendex". MDPI.
  16. ^ "MDPI Open Access Information and Policy". MDPI.
  17. ^ "CLOCKSS". MDPI.
  18. ^ "About MDPI". MDPI.
  19. ^ Andrulis, Erik D. (2011). “Theory of the Origin, Evolution, and Nature of Life”. Life 2 (1): 1?105. doi:10.3390/life2010001. http://www.mdpi.com/2075-1729/2/1/1. 
  20. ^ Timmer, John. “How the craziest f#@!ing "theory of everything" got published and promoted”. Ars Technica. http://arstechnica.com/science/2012/01/how-the-craziest-fing-theory-of-everything-got-published-and-promoted/ 2014年1月17日閲覧。 
  21. ^ a b Nosowitz, Dan. “Hilarious "Theory of Everything" Paper Provokes Kerfuffle”. Popular Science. http://www.popsci.com/science/article/2012-02/hilarious-theory-everything-paper-provokes-kerfuffle-hullabaloo-foofaraw 2014年1月17日閲覧。 
  22. ^ Zimmer, Carl. “Life turned upside down”. Discover Magazine. http://blogs.discovermagazine.com/loom/2012/01/31/life-turned-upside-down/#.Utj4jvS1zFV 2014年1月17日閲覧。 
  23. ^ Lin, Shu-Kun (2012). “Publication of Controversial Papers in Life. Life 2 (1): 213?214. doi:10.3390/life2010213. http://www.mdpi.com/2075-1729/2/1/213. 
  24. ^ a b Samsel, Anthony; Stephanie Seneff. “Glyphosate's Suppression of Cytochrome P450 Enzymes and Amino Acid Biosynthesis by the Gut Microbiome: Pathways to Modern Diseases”. Entropy. doi:10.3390/e15041416. 
  25. ^ Kloor, Keith. “When Media Uncritically Cover Pseudoscience”. Discover Magazine. http://blogs.discovermagazine.com/collideascape/2013/04/26/when-media-uncritically-cover-pseudoscience/#.UtkD__S1zFU 2014年1月17日閲覧。 
  26. ^ Beall, Jeffrey. "Anti-Roundup (Glyphosate) Researchers Use Easy OA Journals to Spread their Views". Scholarly Open Access. Retrieved 8 January 2015.
  27. ^ "Controversial Articles". MDPI. December 2013. Retrieved 9 February 2014.
  28. ^ Jeffrey Beall (18 February 2014), Chinese Publisher MDPI Added to List of Questionable Publishers, Scholarly Open Access: Critical analysis of scholarly open-access publishing
  29. ^ "Conclusions from OASPA Membership Committee Investigation into MDPI". Retrieved 14 April 2014.
  30. ^ "Chinese Publisher MDPI Added to List of Questionable Publishers". Retrieved 10 March 2014.
  31. ^ Jeffrey Beall (11 June 2015), Guest Editing a Special Issue with MDPI: Evidences of Questionable Actions by the Publisher, Scholarly Open Access: Critical analysis of scholarly open-access publishing
  32. ^ Beall, Jeffrey (2013). “The Open-Access Movement is Not Really about Open Access”. tripleC 11 (2): 589?597. http://triplec.at/index.php/tripleC/article/view/525/514. 
  33. ^ "Response to Mr. Jeffrey Beall's Repeated Attacks on MDPI". MDPI. February 2014. Retrieved 13 March 2014.
  34. ^ "Data ? Editors". Retrieved 17 March 2014.
  35. ^ Murray-Rust, Peter (2014-02-18). "Beall's criticism of MDPI lacks evidence and is irresponsible".
  36. ^ "Data and Documents".
  37. ^ Rampelotto, P. (2014). “Opening up Peer Review in Life: Towards a Transparent and Reliable Process”. Life 4 (2): 225. doi:10.3390/life4020225. 
  38. ^ "Instructions for Authors ? Editorial Procedures and Peer-Review". Life. MDPI.
  39. ^ "Is this peer reviewed? Predatory journals and the transparency of peer review".
  40. ^ Haspelmath M (2013). “Why open-access publication should be nonprofit?a view from the field of theoretical language science”. Front. Behav. Neurosci. 7: 57. doi:10.3389/fnbeh.2013.00057. 
  41. ^ Rittman M (2015). “Commentary: Why open-access publication should be nonprofit?a view from the field of theoretical language science”. Front. Behav. Neurosci. 9: 201. doi:10.3389/fnbeh.2015.00201. 
  42. ^ Beall, Jeffrey (18 February 2014). "Chinese Publisher MDPI Added to List of Questionable Publishers". Scholarly Open Access. Retrieved 31 January 2015.
  43. ^ "Chinese Publisher MDPI Added to List of Questionable Publishers". Scholarly Open Access.
  44. ^ "Open access critic has major publisher in crosshairs - eCampus News". eCampus News.
  45. ^ "Jake New on Twitter". Twitter.
  46. ^ "Open access critic has major publisher in crosshairs - Page 3 of 3 - eCampus News". eCampus News. Archived from the original on 10 March 2014.
  47. ^ a b "Response to Mr. Jeffrey Beall's Repeated Attacks on MDPI". MDPI. 24 February 2014. Retrieved 31 January 2015.
  48. ^ "Editorial Board of Universe" (Online access). MDPI Publishing. 2016. Retrieved 2016-10-22.
  49. ^ Vrieze, Jop (2018). “Open-access journal editors resign after alleged pressure to publish mediocre papers”. Science. doi:10.1126/science.aav3129. 

外部リンク[編集]